コバタケの毒牙

マンウィズ

 数ヶ月前に姿を見せたきりだった、野良猫のてぶくろが久々に遊びに来た。下手をしたら食べ物にありつけなくて野垂れ死にでもしたんじゃないかと心配していたのに、まるまると太って毛並みも良い。裕福な家に厄介になっているのか、暮らしに困っている様子はなさそうだった。
 最近は、man with a mission(画像)とか言う、オオカミの面を被ったバンドが気になっている。演奏力はしっかりしているし、天才生物学者が作り出した究極の生命体という設定も面白い。ただ、天才生物学者の名前を"ジミー・ヘンドリックス"としたのは、あまりにも安直すぎる。
 大衆化する前のレミオロメンを気に入って聞いている。特に、ドラムが俺の好みに合っている。俺にとって良いドラムの条件とは、スネアの抜けが良いこと、メリハリが効いていること、叩きどころで回転が速いこと、の3点なんだけど、そのどれもが標準以上である。ボーカルは、Aメロ、Bメロ、サビだけでは飽き足らず、間奏にも歌詞を乗せてしまうんだけど、それも気持ちが良い。メンバーはレディオヘッドあたりを目指していたようだが、藤巻亮太のピュアな声とメロディセンスが名プロデューサー、小林武史の目に留まり、その後、バンドは凄いスピードでメジャー化する。小林武史の色が付けられた楽曲と、自分たちがやりたかった楽曲との間に乖離が生じたことに苦悩したバンドは、ついに活動休止。才能溢れるアーティストほど陥りやすい落とし穴である。
 ここひと月半ぐらい、仕事がすごく忙しい。忙しいと穏やかではいられず、ついイラッとしてしまう。家庭の事情を盾に有給をとりまくる輩もいるし、案も持たずにだらだら打ち合わせをする輩もいる。断りもなく、俺の勤務シフトをいじろうとする輩もいる。当然、俺の語気も荒くなる。支社長に「腹くん、そんなに怒らないだっぺ」と言われる。「俺が発する言語は日本語で、この国の歴史の一部だ。当然俺にも使う権利がある。言論を弾圧するな。言葉は危険か? 解釈の押し付けは断る。俺が使う言葉は俺が使い方を決める。指示をするな。いくら気に喰わなくてもそれがどうした? 俺の権利だ。言論の自由ってやつだ。それなしじゃ俺たちは奴隷さ。俺の言葉だ。失せろ!」と、NEVER MIND THE BOLLOCKSのアルバムタイトルが卑猥だ、と裁判沙汰になったときのジョニー・ロットンのように言ってやりたい。
 …ふいに携帯電話を暇つぶしがてら見ていると、あのケンカも、あの約束も残っていて、まるで僕の歴史を携帯しながら生きているような、そんな、こんな僕です。さらに電話帳の名前をぼんやり眺めていると、どうにもこうにも思い出せない人がいて、まるで僕よりも僕のことを分かっているような、そんな、変な箱です