残高100円

三毛猫

 4月の人事異動で、三毛猫のようなヘアスタイルの中年が転勤してきた。席は、俺の対面。それまで、ドンキーコングが座っていた席である。三毛猫のようなヘアスタイルの中年は、仕事は非常に細かくて、小さなミスも許さない。そのおかげで、転勤前の部署でも上司とたびたび対立してきたようだ。この仕事に就く前はジャーナリストの肩書を持ち、弁も立つ。うちの部署に来てからも、弁が立つのを良いことに、「あななたちは! あなたたちは!」と論理的かつ上から目線で、上司でもおかまいなしに叱りつける。三毛猫の隣の席の、への字口の男は仕事も性格もアバウトである。繊細な三毛猫が異動してきた瞬間から、二人の対立関係は始まった。つい先週あたりも、「何をやってるんだあんたは!」とか「最初に間違いを認めて謝れば少しは可愛げがあったのによ!」などと恫喝されていた。今のところ、三毛猫の怒りの矛先がへの字口の男に向いているが、いつ俺に向くのか。幸いにしてまだ、関係は良好と言える。俺の場合、ドンキーコングといい、三毛猫といい、比較的に荒々しい性格の人間と、不思議とうまくやれてしまう。俺も向こう側の人間ということか。
 宝塚記念は、キングカメハメハ産駒の成績が良くないことを理由に、ルーラーシップを蹴ったことが裏目に出た。とうとう、口座の残高が100円。「会心の的中」というものから、1年以上遠ざかっている。
 …いつでも僕は、ありったけの「ホント」をベッドの上に脱ぎ捨てて、目一杯の「ウソ」をクローゼットから引っ張り出して、身に纏って、今日も家を出る