今宵の月のように

皇帝ルドルフ

 毛皮のマリーズのボーカリスト志磨遼平は、文学にも造詣が深く、テレビブロスへ寄稿するコラムも絶賛されている。ミュージシャンシップも素晴らしく、自身や、自身のバンドメンバーに求めることも簡単ではない。音楽をやめることを考えていたちょうどそんな時期、毛皮のマリーズがインディーチャートで1位になり、同時に忌野清志郎が亡くなった。その二つの出来事を偶然とは思わず、「清志郎さんが亡くなったんだから、俺がやらなきゃってことだ」と、音楽を続ける決心をしたそうだ。そんな毛皮のマリーズの新作は、「ハロー・ロンドン」と仮タイトルが付けられており、正式タイトルはリリースの日まで伏せられていた。「ハロー・ロンドン」と言う、なんとなくポジティブで明るい仮タイトルがついていたそのアルバムは、いざ蓋を開けてみれば「ジ・エンド」というポジディブとは真逆の正式タイトルでリリースされた。アルバムの内容は、ファンタジーの世界みたいに色々な色が散りばめられたハッピーな前作とはうって変わり、荘厳でダーク一辺倒の色合いだった。かと言って駄作かと問われればそうではない。一音一音噛みしめるように作りこまれており、ひとつのアートとして見るとレベルは相当高い。何しろ、隠そうとしても隠しきれないメロディセンスは今回も際立っている。ロンドンという土地でレコーディングしたせいか、さらに湿り気に磨きがかかったと言っても過言ではない。構成力も尋常ではない。例えるなら、椎名林檎の「加爾基 精液 栗ノ花」とか、クイーンズ・ライクの「オペレーション・マインドクライム」みたいな感じか。こんな作品を作ってしまって、しかもタイトルが「ジ・エンド」で、と悪い予感はしていたが、毛皮のマリーズはアルバム発表後のツアーで解散するそうだ。志磨遼平の次なる活動に期待したい。
 ここ一週間、3つほど大きな出来事があって競馬界が慌ただしかった。まず1つ目は、三浦皇成の師、河野調教師が暴力団がらみで逮捕されたこと。可愛い愛弟子をたぶらかされた、とほしのあきを非難していたあの頃が懐かしい。2つ目は、凱旋門賞の日本馬の惨敗。欧州で名を馳せたラムタラを母の父に持つヒルノダムールの挑戦は胸が躍ったが、完全に力負け。そして3つ目は、皇帝シンボリルドルフ逝去。リアルタイムで知らないので、ダビスタじゃ種付け料の割に走らないトウルビヨン系という程度の印象しかなかったが、7冠の偉業は大したもの。出来事というほどじゃないけど、スプリンターズステークスは久々に熱くなった。後続を塞ぎ込む、アンカツの非紳士的な騎乗のおかげでパドトロワが連対し、俺の財布は膨らんだ。
 俺の隣の席のへの字口の男はカツオの刺身が相当好きらしい。今日もニンニクの臭いをぷんぷんさせて出勤し、帰るまでニンニクの臭いをばらまいていた。俺は大抵コーヒーをお供に仕事するんだけど、隣の席のへの字口の男の口のニンニクの臭いの残り香と、苦いコーヒーとの相性がとても悪い。
 嫁が出かけたので、今夜はいつもと勝手が違う。風呂の沸かしかたも電気のスイッチも何もかもわからない。こんな夜は、月でも眺めながらテブクロ(猫)と酒でも飲むしかないわな。
 …サブリナから最後のメール。ついに成功したみたいだ。下界からの電話に出れば、一瞬で手厳しい世界だった

THE END【初回盤】

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