35歳の秋だから

かめはめ派

 競馬ファンにとってのこの秋最大の興味は、「渡る世間は鬼ばかり」の最終シリーズがどれだけ視聴率を稼ぐかではなく、アパパネ秋華賞を勝つかどうかである。もし勝てば、スティルインラブ以来7年ぶりの3冠牝馬の誕生となる。個人的にはミスプロ系の馬が芝G1戦線を賑わすのは好ましくないが、あれだけ強ければ仕方がない。ミスプロ系と言えば短距離馬かダート馬と相場は決まっていたが、アパパネのようなキングカメハメハ産駒に関しては、芝の中距離も軽く勝ててしまう。そう言えば、2年前の秋華賞ブラックエンブレムミスプロ系か。ちなみに、橋田壽賀子から最後の一滴まで搾り出そうとするなど、番組の質の下落に歯止めがかからないTBS。もはや、テレビ東京に追い抜かれたと俺は思っている。それにしても"キングカメハメハ"と変換したいのに、第一候補が"キングかめはめ派"になってしまう俺のFEP。どれだけ少年ジャンプが好きなんだか。
 会社の来客が帰った後にああだこうだ言うのは、隣の席のへの字口の男である。どでかいサングラスをかけた中年の女性客が帰った後に「あ、今の人、たぶん昔女優だっただっぺ。俺、見たことあるだっぺ」などと始まる。への字口の男性は50歳ぐらいで独身だが、日活ロマンポルノの大ファンである。女性客のことも日活ロマンポルノで見た記憶があると語る。さらに、久保新二とか言う男優が出た作品はほとんど見ているらしく、若かりし頃、型にはまらない久保新二のプレイに魅了されたそうだ。枯れ葉散る白いテラスの午後3時、35歳の俺はそんな会話ばかりしている。
 世の中は全てオンの時間に、モニターの中で稼ぐ経験値。風吹けば気になる尿酸値。滞る不純物と支払い。気がかりなあのお金の行き先。あの日の夕方に観た再放送。エンディングの切ないトーン。遠すぎてぼんやりした未来が、身近すぎて立ちつくす今。きっと少しだけ分かる35歳の秋。35歳になったら、ぼくも35歳になったら、ゲームなんてしないと思ってた。35歳になったら、ぼくも35歳になったら、お菓子なんて食べないと思ってた。35歳になったら、ぼくも35歳になったら、係長ぐらいになれると思ってた。
 …今日で最後だと言うのに、弱い僕は君に近づけなくて、舞い散る桜の木の陰から見つめるだけで精一杯だった。友との別れを惜しんで、その肩を小さく揺らして涙する君の後姿は儚くて、胸がギュッと熱くなった