センチメンタル・カンガルー

アベチャン

 人に換算すると80歳から90歳ということは、不慮の事故とは言え天寿を全うしたに等しい。オグリキャップが亡くなった。笠松時代にこのアイドルホースの手綱をとったのは、かの安藤勝己騎手である。笠松で「カラスが鳴かない日はあってもアンカツが勝たない日はない」と言われたその中には、当然オグリとの勝利も含まれる。ラストランで有終の美を飾ったオグリだが、最後の直線では実況席解説で「ライアン! ライアン!」と連呼する大川慶次郎氏がいた。大川氏も、とうに故人である。
 毎日サッカーを見ているので、今日みたいなノーゲームデーは物足りなく感じる。試合はないが、特番とかダイジェスト版が多く組まれるからサッカーを目にしない日はない。情報番組でも参院選よりもサッカーに時間を割くし、口蹄疫なんていつの間に消えてなくなったのか。サッカーと家電に詳しいことで知られる土田晃之だが、"イニエスタ"のことを"イエニスタ"と何度も間違うあたりが胡散臭い。
 堅牢な組織ほど壊されたときは脆いもので、優勝候補の筆頭と見ていたセレソン(ブラジル代表の愛称)が、痛々しい姿で大会を後にした。アルゼンチンはドイツに勝てないとは思っていたが、4対1は想像以上。パラグアイのディフェンスがいくら堅いとは言え、スペインなら1点ぐらいは取れるだろうと思っていた。ブラジルの敗戦以外は予想どおり。
 大会に入る前と入ってから。手に平を返したように岡田監督を持ち上げるマスコミの厭らしさには吐き気すら覚える。
 隣の席のへの字口の男は、阿部勇樹を試合に出すようになってから岡田ジャパンの躍進が始まった、と熱っぽく語り、「あの人、頭いいだっぺ!! 阿部は頭いいだっぺ!!」と手放しで絶賛する。そう言えばその数日前は、オーストラリア旅行をしたときに見たカンガルーの行動について熱っぽく語り、「あれは頭いいだっぺ!! カンガルーは頭いいだっぺ!!」と褒めちぎっていた。彼の中では、阿部勇樹もカンガルーも同列なのだろう。
 通称"二本松のズラタン・イブラヒモビッチ"は、己れの誕生日に、自分へのご褒美として発注したラルフローレンのポロシャツをお召しになり、大阪の旅を満喫してきたようだった。パソコンがフリーズするほど大量の画像を送ってよこすので、ある意味、スパムメールより性質が悪い。いい歳こいたアラフォーのおっさんがラルフのシャツをお召しになること自体は間違ってないが、どの画像も表情とポーズが全て同じである。きっと鏡の前で何度もポージングを繰り返したんだと思う。いい歳こいたアラフォーのおっさんが鏡の前でポージングする姿を想像するのはいやだなあと思った。
 しかしコロッと負けやがったが、もしブラジルが優勝してくれれば俺はタダで焼肉を食べれたのに。なんて言ってると琴光喜になっちまうよな、くわばらくわばら。
 …あぁ、あの時から、束縛と自由に溢れてる。もう、たどり着くさ、準備完了、すぐに走り出せるはず。さぁ、笑い飛ばせ、複雑な雑踏の暗闇を。頭の中の、弱気な感情を取り祓え