村から村へ通勤

 転勤することになり、連夜飲み会は開かれる。組織が大きいからほとんど顔を見たことがないような人もいて、「わたくし腹と申しますが、このたび異動になりまして…」などと酒をついでまわる。送別会なのに自己紹介はないよな、とか思いながら。
 若い女子社員に「腹さん、オシャレですよね。『今日は紫のシャツだったよ』とかいつもみんなで喋ってるんです」などと言われる。好きなら好きと言ってくれればいいのに。
 4月からは、支店に勤務しつつ本社も兼務という形になりそうだ。なるべく仕事を残して行きたくないが、「あの書類ってどうなってましたっけ?」なんて転勤先に電話がかかってきたら、得意の忍法記憶喪失の術を使うしかないよな。
 …最悪の景色と最高の天気が、偶然に近い距離を保ち続けていた日。遠く吸い込まれる苛立ちの声。きっと正しいのはこの世界だけだろう