虎の穴

　会社の研修所は人里離れた寒々しい場所にあって、一度入ったら「以上をもちまして、今回の研修を閉講します」の声を聞くまでは軟禁状態で研修を受けなければならない。先週は、この「虎の穴」に泊り込んで研修を受けてきた。夜の飲み会では「童顔でイケメン」などと言われ、のぼせたりしたが、肝心の研修のほうはそこそこ出来るであろうという根拠なき自信を持って望んだものの、周囲にやっとついていっているような状態だった。だからこそ研修を受けた甲斐があったとも言えるが、それにしても己れの頭の固さには少々驚いた。
　世の中のありとあらゆる事柄を科学的に検証する「アインシュタインの眼」という番組があって、先日は「化粧」が取り上げられていた。男性が女性化する昨今、男も化粧をする時代が近い将来必ず訪れると思ったので、今のうちに勉強しておいた。忘れないうちに代表的なものを数点書き留めてみる。まず、ファンデーションは手で温めてから塗るとのびが良く、少量でむらなく塗れる。フェイスパウダーは化粧筆を使い、塗布すると同時に余分なところを落とす。小鼻と目尻の延長線上に眉尻が来るようにする。他には、化粧水は叩かず抑えるようにつける。クレンジングは洗剤のようなものだから、なるべく肌に負担をかけないよう短時間で洗い流す。コーヒーには美肌効果がある。などなど。
　たとえば保湿クリームを顔に塗るときなんかも、手の平で人肌に温めてから塗れば伸びが良いとか、シャンプーや洗顔も肌や頭皮に負担をかけないよう短時間で済ますようにしようとか、化粧のテクニックを今まさに応用できると思ったこともいくつかあった。
　PSPでサカつくが発売されたのでガシガシとプレイしている。チーム創設４年目だが、未だにＪ１昇格を果たせないどころか、資金難で有力選手を獲得できないし、設備投資なんてもってのほか。監督はセットプレイの練習ばかりさせているが、セットプレイから点を取れたためしがない。イビチャ・オシムがアドバイザーに就任したが、年に２回だけ来てチンプンカンプンなことを喋って、あとは帰る。そんな辛い状況下、俺がどうにかモチベーションを保てていたのは、皆藤愛子が秘書をつとめてくれていたからである。なのについ先日、「サッカーのことを本気で勉強したいから」なんて言って俺のもとを去ってしまった。いつか帰ってくるのかい？　俺に明日は来るのかい？
　…退屈に煙る人生を、薔薇色に染める魔法水。暮らし倦みたる手の平に、注いでおくれよ、なみなみと

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