腹鉄男の、グローバル・アイズ

tetsuo_hara2009-08-17

 世界陸上の100m決勝でウサイン・ボルトが樹立した9秒58という記録(画像)は、「規格外」とか「異次元」などと言われ、世界中に衝撃を与えている。世界陸上と言えば、テンションを間違える織田裕二。そもそも陸上競技に興味がないので俺はテレビを見ていないが、今回の織田裕二は至って冷静だったらしい。あまりの大記録を前に呆気に取られていたという説もあるが、やはり山本高広にネタにされるのを警戒したのだろう。せっかくボルトが頑張ったのに、珍言に限りなく近い名言が生まれなかったのは悔やまれる。
 サッカーのオランダ1部リーグで本田圭佑がまたやった。好調のユトレヒトを相手に、1ゴール1アシストの大活躍である。無回転でゴールに突き刺さる本田のシュートに、実況アナも「うわ! なんという美しさ!!」と思わず興奮したという。VVVフェンロでの試合はこれが最後か、と言われるほど欧州移籍市場は本田圭佑に色めき立っている。
 昨日、再び海へ行ってきた。前回と違って気持ちの良い青空が広がり、絶好の海水浴日和だった。俺は胡瓜の漬物になるんじゃないかというぐらい長時間塩辛い潮水に浸かり、波に乗ったり、たまに波に飲まれたりした。海の中は陸の上のように体の自由が利かないのに、なぜか居心地がとても良い。波を凝視すると、うねりの頂点に魚がうじゃうじゃいた。あんなにうじゃうじゃいるのに捕まえようとしても触ることさえできない。前に進みたくて手足と腹筋と背筋をフル稼働させるが、まるで進まない。こんなに不自由なのに、心底居心地が良いんだ。
 俺が波に揉まれていると、「go way! go way! don't worry! don't worry!」などと俺に向かって叫ぶ人物がいる。見ると、毛むくじゃらで中年太りの外人だった。毛むくじゃらで中年太りの外人は「こうするんだよ」と言わんばかりにトリッキーな動きをしたもんだから、俺が「Great!」と言うと少し喜んだようで、「are you chinese?」などと話しかけてきた。「no.I'm japanese」と中学1年生レベルの英語で答えると、「you look like chinese. your english is jolly good」みたいにおだててきやがった。調子に乗った俺が出身地を尋ねてみると、いろんな国名を言いやがったが、どうやら毛むくじゃらで中年太りの外人はロシアから来たパキスタン人ということらしい。年齢を聞かれたので34歳だと答えると「oh! same age!」と親近感を覚えたようだった。ロシアから来た毛むくじゃらで中年太りのパキスタン人は74年生まれの35歳と言っていたが、頭はハゲをカムフラージュするために坊主にしているし、顔には深いシワが刻まれているし、メタボリックな中年太りだし、体の表側はそのほとんどが長い体毛で覆われているしで、とてもじゃないが俺より1歳だけ年上には見えなかった。俺はまた中学1年生レベルの英語で(散々会話した後に言う台詞じゃないが)「nice to meet you」と握手して別れ、腹ごしらえのために岸へ上がった。
 砂浜でしばらくボケーっとしていると「Hi! my friend!」と、例のロシアから来た毛むくじゃらで中年太りのパキスタン人が意気揚々と近寄ってきて握手を求めたので「Oh!」などと中学1年生レベルの感嘆詞を駆使してシェイクハンドした。名前を聞かれたので「鉄男」と答えると「テツオ?」と聞き返されたので、「鉄男 is my first name」と言ったが、なぜここで「"鉄男"は私のファーストネームです」と言う必要があったのか自分でも良くわからない。ロシアから来た毛むくじゃらで中年太りのパキスタン人は「カーン」という名前らしい。その後も、脳細胞を総動員させながら中学1年生レベルの英語でいろいろしゃべったが、カーンは2ヶ月前から宇都宮に住んでいて、自動車を解体する仕事をしているらしい。国内で自動車の運転免許証を取ったが、1度目は周囲の確認を怠って不合格となり、2回目はよく確認したら合格したんだとか。日本語以外の9ヶ国語を話せるが、日本語は平仮名、片仮名、漢字と3種類もあるだけになかなか覚えられないと言っていた。たしかに、この日カーンが使っていた日本語は「解体」と「素晴らしい」の二つだけ。習熟度はまだまだのようだ。「ビールは飲めるか?」とビールをご馳走してくれそうな勢いだったが、「I like beer.but,today is driving」とまた知っている英単語をこれでもかと並べて断った。カーンはしきりに「ロシアには海がない」と言っており、海が楽しくて仕方ないという様子。バナナボートをレンタルして遊ぼうと誘ってきたが、「lunch time」と断った。「じゃあ、ランチを食べたら一緒にボートで遊ぼう」と言われたが、仲間に促されて帰ったようで、それっきりだった。
 中学1年生レベルの英語で、文法も滅茶苦茶だったはずだが、会話が成立していたし、貴重な経験ができた。洋楽を聞いているせいか、ヒアリング能力は自然と身についたのかもしれない。何より大切なのは、伝えたいと思う気持ちである。英会話を習ってみるのも面白いかも、と思った。そんなサプライズも込みで、最高の海だった。
 …ギリギリアウトでフレームイン。あさってのほう向いてピースサイン。縦横無尽にセオリー無視。乗らなきゃ飛び出す武器、ダンマリ