彼方からの電話

 馬券を買えば買うほど金がどんどん増えていくものの、使いどころがなくてほとほと困り、「そうだ!」と仙台に買い物に行こうとした矢先に岩手宮城内陸地震は起きた。宮城方面は断念し、変わりに栃木へ買い物へ行った。それなりのショップは軒を連ねているものの、栃木は仙台や郡山と較べるとずっとずっと田舎で、田舎であるがゆえに駐車料金が安いというメリットがあった。"地獄の皇太子"の異名をとる俺は、スカルの描かれたシャツなどを買い込んだ。それでも財布は薄くならない。
 ここ数日はサービス残業が続いており、水溜りに足を浸したドブネズミの死骸のような顔で机に座っている。そんなさなか内線電話がけたたましく鳴るので、受話器をとると真面目な口調で「ミスターシービーです」の声。声の主は、無論去年まで俺の部署に中ボスとして君臨していた男である。
 「3の倍数と3が付く数字だけアホになる」というネタを最初に見たときは全然面白くないと思ったものだが、2度3度と目にするにつれ、じわじわ面白く感じるようになった。"世界のナベアツ"で大ブレイクした渡辺鐘(わたなべあつむ)さんはジャリズムのボケ担当だったが、ジャリズムを解散(現在は再結成)したあとに放送作家として成功し、ジャリズムよりもむしろ"売れっ子作家の渡辺鐘"として名が通っていた。"世界のナベアツ"でブレイクしてからテレビの露出がやたらと増えたが、それよりも放送作家業のほうが儲かるため、露出は増えたが収入が減ったという説がある。そんな"世界のナベアツ"が、このたび写真集を出版した。やはり、3の倍数と3がつくページだけアホになっているらしい。値段は千円だが、どうせならそこも3の倍数で999円にしてほしかった。

 …約束もしないのに、決まってた手と手。きっと今から落ちてしまう。熱くなったチョコレート、ひどく甘い匂い。わたしはすでに落ちている、ゆるりゆるり融けながら