私は貝になりたい

 年1回だけ会うことになっている友人(相手が女性であれば織姫と彦星にでもたとえていたところだが、残念ながら男性である)に、今年はどうしても会うことができなさそうなので、手紙を書いた。たったの数行だが、直筆の手紙を書いたのなんて何年ぶりになるだろう。ほんの数行だが、出来上がりを読んでみたらまるで谷川俊太郎が書いたみたいだった。
 韓国の盧武鉉大統領が訪朝したことを北朝鮮のテレビ局も大きく取り上げているが、盧武鉉大統領を迎えるべく登場した金正日総書記の紹介の仕方がすごい。「我が偉大なる金正日総書記が…」と枕詞のように"我が偉大なる"を付けるし、いざ登場するシーンでは「金正日総書記が姿を現すと大地が震撼し…」などと、まるで怪獣がのしのし歩いているかのような大げさな表現を用いる。あの国は国全体がコントなんだ。
 読売巨人軍が5年ぶりにリーグ優勝を遂げ、巨人馬鹿の中ボスは狂喜乱舞した。どのぐらい狂喜乱舞したかというと、翌日のスポーツ紙を5紙も買ってしまうほど、と言えば喜びぶりが伝わるだろうか。「テレビ見たかい?」と聞かれ「あ、いえ」と返答を渋ると「ムグッ!!」と呻るので「内海がピンチを1点で切り抜けた場面だけ見ました」と言うと「あれがポイントだったんだよ」と満足そうな顔に戻っていた。中ボスがスポーツ紙を5紙も買ってきたのは、桑田が巨人軍を解雇された時以来だ。
 昨夜はプロゴルファー猿みたいな顔をした男の歓迎会だった。俺の好きなタンタカタンに混ぜ物をした"タンタカタントニック"なるカクテルを飲んで、んー、悪くないけれどやっぱりロックのほうがうまいなあなどと思っていたら大ボスが俺の横へスーッときて「腹さんは笑顔がいいねえ」と言うと、すかさず対面に座る小ボスが「いやあ、俺は腹さんと会ってはじめて『ありがとう』の言葉の意味を知ったんだよお」などと俺をさらに持ち上げる。褒めても何も出ないぞ、これ、大豆ですから。
 プロゴルファー猿みたいな顔をした男は異動して今日で4日目を迎えたが、雷でパソコンがやられたものの無償で修理してもらえたことを喜んでいた。日中の時間帯にパソコンでタイマー録画をしているらしいが、日中に録画したい番組なんて放送しているのだろうか。思わず「水戸黄門の再放送でも録画してるんですか?」と聞いたら一瞬口ごもり「して…ない」と普通に答えやがった。とんちの利いた"返し"を期待したのに(むしろこの男にとんちの利いた"返し"を期待するほうが間違っているのだが)普通に答えられたら質問したこっちが恥ずかしいじゃないか。私は貝になりたい
 そのプロゴルファー猿みたいな顔をした男、コミュニケーション能力とかは相変わらず欠落しているが、文章の読解力や理解力、そして呑み込みの速さには目をみはるものがある。そもそも俺の会社に採用される人間というのは、学生時代にクラスで1番勉強が出来たような人間ばかりなのだ。プロゴルファー猿みたいな顔をした男の頭が良かったところで、何の不思議もない。むしろ、学生時代にスケベなことばかり考えていた俺がこの会社の採用試験に受かったことのほうが不思議なのだ。
 腸内環境と自分の趣味を兼ねて、毎朝ヨーグルトを食卓に並べてもらっている。ところが、昨日の朝はあい子さん(母)がうっかり忘れてしまったらしく、ヨーグルトにありつけなかった。そのときに言えば良いものを、あえて一夜明けた今日の晩飯のときにあい子さんにそのことを訴えておいた。時と場合によっては、一夜明けてから告白したほうが言葉の威力が増すこともある。いわば暗殺拳究極奥義"三年殺し"のようなものだ。俺、良い性格してるよな。
 …公園の噴水は何時までか? 僕たちがそれを知ったって意味ないか。人類の愛情は元気か?とか、結局人間は一人かとか、わからないほうがビューティフォー