なぜケータイは便器に流れたがるのか

 某CMのオダギリジョーばりに人生の選択肢を迫られ「異動」のカードを切ってから1年がたった。飛行機のチケットを片道分だけ渡されて「はい、来月から上海勤務あるね」と今年こそは言われるんじゃないかとヒヤヒヤしたが、残留の線が濃くなった。チェスの駒のように動かされる同僚の姿を静かに見守ればよいから今年は気楽だ。(数ヶ月前、取締役がチェックメイトされてしまったことが遠い昔のようだ)
 あれはパナソニックが初めて折りたたみ型のケータイを発売した頃だから6〜7年前の話だが、酔っ払って水洗便所にケータイを流すという大失態を演じたことがあった。もう二度とすまいと誓ったはずなのに、昨日ジャージのポケットから滑り落ち、またもやケータイを便所に流してしまった。現代人のケータイ依存度たるや計り知れず、このときの落ち込みようったらないね。
 仕方なく機種変しようとドコモショップへ。ソニエリ端末に固執しているわけではないが、かと言って他社製品にも魅力を感じないので、やっぱり慣れ親しんだソニエリ端末「so703i」に。アロマシートを付けて"香るケータイ"とおよそ方向性を間違えた売り方をしている機種だが、「ドコモレディと香りの嗅ぎ合いをしてすごく楽しかった」という報告例もある。アロマシートの嗅ぎ合いっここそできなかったが、不覚にもベビーフェイスのドコモレディに恋をした。保証期間の説明のところで「3年間保証がつきますが、水濡れ等では保証が効きませんので…」と言われ、含み笑いで「以後気をつけます」と言うと「これからは気をつけてくださいね(ハートマーク)」と諭され、まるで付き合っているかの如き錯覚に陥った。その前に、"水没事故"といえば9割は便器の中と決まっているが、水没したケータイを臆せずに触ってくれた瞬間から恋ははじまっている。ベビーフェイスだが芯は強いタイプで、お付き合いがはじまって少し倦怠期に入って、俺が「こんな夜に君は今何を思うの? ちなみに俺は後輩の女の子をちょっと家まで送ってきた帰りだよ。あの子たぶん俺に気があると思うなぁ」とか意地悪して言ったら、「あら、それはどうもお疲れ様でした。あなた下心が笑い方にモロに出るの。だから次のチャンスがあれば気をつけなさいね。あっそうだ、ちなみに私は今日告白されたの」とカウンターパンチを喰らわせてくるに違いなく、そこまで妄想を膨らませる俺は病気だと思った。
 っていうか、俺がドコモショップにいた40〜50分の間にケータイを水没させたお客さんが他に2人いたので、売上を伸ばすため、水に突き進むようケータイにプログラムされてるんじゃないかと思った。全部の機種を防水加工にしてください。
 …僕を光らせて君を曇らせた、この恋に僕らの夢を乗せるのは重荷すぎたかな。君の嫌いになりかたを僕は忘れたよ。どこを探しても見当たらないんだよ。あの日どうせなら「さよなら」と一緒に教えて欲しかったよ、あの約束の破り方を、他の誰かの愛し方を。だけど本当は知りたくないんだ