オカマバーの店名は「ポパイ」

 支店の人から電話でウダウダ言われたのでイライラってなって「うぜぇの通り越して、だりぃ。悪いけど来てくれる?」と言って自分のところに呼びつけて怒り飛ばしてやった。社会的地位がそこそこ高い人間をわざわざ呼びつけて怒り飛ばすのは快感である。俺なんてパンツの後ろと前を間違えるような、日常生活レベルが幼稚園児並みの男なのに。
 俺の職場の次男的ポジションの中年男性はオカマなんじゃないかと思う。全体的になよなよしている点、やや内股気味に歩く点、歳のわりにやたら髪の毛が多い点(=女性ホルモンが多い)などがその根拠であり、最初は冗談半分でそんな風に思っていた。冗談が疑念に変わったのは、乾燥した唇にリップを塗る俺の姿をチラ見してるのを知ってからだ。もの欲しそうでなまめかしい視線を感じ、鳥肌が立った。さらに疑念が確信に変わったのは次男がしていたネクタイである。一見何の変哲も無いごく普通のネクタイだが、ワンポイントが施してあり、それは良く見るとミッフィーだった。きっと部屋のインテリアはオレンジで統一してあって、たくさんのミッフィーグッズに囲まれて過ごしているに違いない。たまにあくびして眠そうにしていると、「さてはあれだな、昨夜はオカマバーでハメをはずしてきたんだろうな」などと邪推までしまう。背後だけはとられないように気をつけよう。
 惜しくも東洋太平洋王者から陥落してしまった西沢ヨシノリ選手だが、肉体は40歳を超えてからも進化し続けているというデータが出ていた。利き手ではない左腕も右腕と同じように鍛えることを心がけ、歯磨きや食事も左腕で行なっていたとか。左腕を使うと右脳が刺激され、反射神経等も良くなるという。俺は右利きなので筆記用具も右腕で扱うが、今日は西沢ヨシノリ選手を見習って左腕で赤ペンを振り回してみたりした。これが案外難しかった。
 柳沢伯夫厚生労働相が女性を「産む機械」と発言したことで日本中が大騒ぎである。最近では宮崎県の地鶏がそうであるように、食品の安全性をアピールするとき、カメラの前で実際に食べるというパフォーマンスが政治家の定番になっている。柳沢厚生労働相も、SMクラブへ行って女性にムチで打たれたりロウソクで熱せられたりしながら「女王さまー」とカメラの前で叫べば良い。女性上位をアピールすることで、うまくいけば辞任を免れるかも知れない。
 明日は出張だが、なぜ俺が選出されたのか不可解である。他人の運転する車に同乗して会場まで行き、ボケーッと会議の様子を聞くともなく聞いていれば良い。いわば意思を持たない木偶の坊みたいなもの。まな板の鯉もその先を、思い描いては眠る。
 …おー、人ごみの中、特別だった自分がいない。おー、隣の人も特別だった自分を探す。グッと手をつかみ引き戻す。誰もいない