月賦

 地獄から来た煉獄の事務職員こと腹鉄男は、罪人の血液を凝固させて作らせた赤鉛筆を用いて容赦なく人の書類にまるとかばつをつけていることが祟り、とうとう体調を壊してしまった。医者に「風邪のひきはじめ」と軽い感じで診断されたその夜、地獄の業火に焼かれるかの如く体が熱くなり、沸騰した脳みそが耳の穴からこぼれるに至った。恋をした青林檎が、赤へと色を変えるぐらいの凄まじい熱さだった。
 職場の大ボスを父親に見立てると、中ボスは少し歳の離れた気の良い長男となる。小ボスはしっかり者の次男で、三男は眼鏡と銀歯が印象的な物静かな人物。四男は世話好きで、五男は驚くほど仕事が早い。俺はというと、うっかり者の末っ子というポジションを確立しつつある。四月、五月、六月と、ようやく三つき目に突入した。俺は異動してすぐ周囲を冗談で和ませられるような器用な男ではないのだ。口を開けば人生問題か何かを演説口調で大声叱咤しそうで、軽々しく言葉も発せない。
 今日の弁当のおかずはホタテとウィンナーだったが、午後からげっぷが出まくった。ちょっと体をひねっただけで「グェッ!!」。何か喋ろうとすれば言葉より先に「グェッ!!」。とにかく「グェッ!!」。胃袋の中でどんなケミストリーが起きてんだよ。ニュージーランドでは牛や羊などの家畜のげっぷが地球温暖化をもたらすとして、畜産農家環境税(通称:げっぷ税)を課してるんだとか。俺、ニュージーランドに行ったら課税されるわ。
 北斗の拳を打って北斗揃いの赤オーラをひいたにも関わらず、単発で終わった。この時点で俺の五月分の給料も泡と消えたかに思えたが、数日後「愛をとりもどせ」を流し、どうにか持ち直した。ところでその店に通称"二本松のズラタン・イブラヒモビッチ"が偶然居合わせたが、俺が真横で声をかけても全然気付かなかった。一心不乱に、しかしどこか悲しげにパチンコ玉をはじき出していた。どうせ出会い系で空振ってその足でパチンコ打ちに来たんだろう。
 …怯えてた情熱を、痛い時間達を、言葉にならない想いを、もう許してあげましょう。あなたの乾いた孤独に思い出の花を添えて、溢れてる私の孤独を埋め込みましょう