薫風の候

 この村の田んぼにも水が張られ、毎夜カエルの合唱が響き渡る。先人は、どのあたりを合唱と言ったのか知らないが、当のカエル達はそれぞれ勝手にゲコゲコ言っているだけで合唱にはほど遠い。
 パン屋のランチをしこたま食べてきた。パン屋だと思って甘く見ていると大変だ。食べ放題の焼きたてパンに加え、前菜からデザートに至る一連の料理を全て平げるとすごい満腹感だ。マッシュルームのサラダが特においしかった。柔らかでありながら歯ごたえもほどほどに楽しめるうえ、マッシュルーム独特の香りと野菜の爽やかさが混ざり合い、口の中だけ北欧の森に迷い込んだかのような錯覚に陥る。食べたのは昼だが、腹が空かないので晩飯は抜いてしまった。もう夜中だというのに全然腹が空かない。向こう3日間は飲まず食わずでもいられそうだ。
 キリン杯のスコットランド戦は、俺が応援する加地選手がとてつもないシュートを見せてくれた。ブルガリア戦での巻選手の得点も、ルーツをたどれば加地からアレックスへのサイドチェンジ気味のパスが発端だった。FWに期待できないならMFを応援するしかないもんなあ。健気に右サイドの上下運動を繰り返す加地選手がジーコジャパンの最大の功労者だ。宮本選手はガンバではベンチを暖めることが多くなった。自信を失いかけている宮本よりも体の大きい松田選手を使うべきだ、と中田がジーコに進言したが聞き入れられなかったとか。Jリーグで1点しか取れていない玉田選手を代表に招集してしまうジーコの思考回路はどうなっているんだろう。W杯グループリーグが終わるころ「敗れはしたが、ジーコジャパンは良い試合をした」という言葉が新聞紙面を飾りそうな気がしてならない。高原がジュビロ時代にあれだけ点を取れたのはゴンがいたからである。ならば、ゴンと高原のツートップという奇策はどうだろう。
 足湯へ行ったら、じいさまが孫を湯に入れようと躍起になっていた。孫はまだ赤ん坊なのに、半ば無理矢理湯の中へ足を浸されて、迷惑そうな顔をしていた。やっぱり不便だわ、喋れないのは。
 東京スカパラダイスオーケストラ甲本ヒロトをフィーチャーして曲を出した。耳に馴染みやすい良い曲だが、スカのリズムとヒロトの声には違和感を覚える。ヒロトには幾つになってもビートパンクをやっていて欲しい。見えない自由がほしくて、見えない銃を撃ちまくる。本当の声を聞かせておくれよ。
 …水曜日の太陽から目を伏せ、あの日を想い空気の泡にまみれる。汗ばむ背中、二人重ねたまま、勇気のかけらが深く沈むのを見ていた