ある傲慢な男の物語

 異動前の最終出勤日―。区切りの日の朝の通勤BGMは、ブラック・サバスのIRON MAN。ご存知、徹夫のテーマ曲である。ブラック・サバスの曲は不気味だけれどなぜか暖かく、ジメジメと湿っぽいけれどすごくエネルギッシュで、身体にパワーがみなぎってくる。3時ごろには仕事もほぼ片付いて荷物の整頓も済み、いつでも帰れる状態だった。なのに名残惜しくなって1秒でもここに長く居たいと思ってしまい、定時すぎてもうだうだしてた。思い出は雪だから、透き通った水へ帰っていくだけ。
 無性に肉を食べたくて、ビーフシチューセットを食事した。筆舌に尽くしがたいビーフシチューに関してはもはや語りつくした感があるが、食後のコーヒーも非常に美味しい。上品な香りを保ちつつもややアメリカンに入れてあり、ビーフシチューのような濃厚な料理の後にはピッタリである。ビーフシチューを食べてる最中はそれこそ遮二無二がっつくのだが、落ち着いてゆっくりと仕上げのコーヒーを飲んでいると、そこに辿り着くまでのスープとサラダとビーフシチューは、結局この一杯のコーヒーのための伏線に過ぎないのではないかと思ってしまう。そこまで計算してあのコーヒーをセレクトしていると思うと、シェフの感性に対しては感服の至りである。
 エクアドル戦の、久保竜彦玉田圭司のツートップを"ドラゴンボールコンビ"と名づけた新聞があるそうだ。ダサいけど気に入った。この世はでっかい宝島だもの。
 社会人になって10年以上が経ち"異動"という転機を久々に得た。これまで平均的な収入を得て平均的な生活してきた。脱サラして自ら起業すれば成功する、というそこそこの自信と奇抜な企画力と豊富なアイディアは持っている。しかし、成功して大金を得てしまったらどうだろう。例えば、吉宗を打って10,000枚以上のメダルを放出させたとして、これまでのようにドキドキしたりするだろうか。きっとしないだろう。地道に小銭を稼ぐぐらいが幸せなのだ。俺が今の仕事を続ける理由はそこにある。
 来月からは、会社の金を自分の手のひらの上で転がすような、そんな仕事に変わります。「地獄の沙汰も金次第」とはよく言うが、その金を「出す」「出さない」は俺次第である。その金に絡む全ての人間は、俺の手のひらの上でうごめく蟲のようなもの。「地獄の沙汰も金次第」は、「地獄の沙汰も俺次第」と言い換えることができる。
 …愛を知らない鳥はどうして群れを成してるの? 一人きりなど恐れるほど子供じゃない、あたしは