ペテン師と空気男

 神がサイコロを振ったおかげで仕事の残務整理にいそしまなくてはならないと思いつつ、つい逃避して、パンティをパンティと呼ばなくなったのはいつごろからか、などと考えたりしてしまう。集中力を持続させることは難しい。
 俺の向かいの席に座っているプロゴルファー猿みたいな顔の人は、対人関係が極端に苦手なため、他人からの評判が良くない。先日、俺が郡山の支社に書類を届けに行ったときに、そこの女子社員からプロゴルファー猿が異動になるか否か聞かれた。「まだわかりませんが…」と答えると「そこが重要なのよ!!」「それが重要なのよ!!」「それなのよ重要なのは!!」と、ものすごい勢いでまくしたてられた。窮地に立たされた俺は「悪いところばかりじゃなくて良いところもあるので、どうにかそこを見てやってください」と苦し紛れに余計なフォローをしてみたが「どこよ!?」「どこがよ!?」「どこなのよ!!」と矢継ぎ早に返り討ちを喰らった。それからは何も言わずに半ベソで帰ったんだ。
 「ペテン師と空気男」とは江戸川乱歩氏の小説のタイトルで、"ペテン師"とは人を騙すのが巧みな詐欺師のような人間のこと、"空気男"とは物忘れの激しい頼りない男のことである。
 通称"八山田のディディエ・ドログバ"は、パソコンがウィルスに感染したことを"二本松のズラタン・イブラヒモビッチ"のせいにしている。教えてもらったエロサイトにアクセスしたからウィルスに感染した、と言い張るのだ。第三者の俺から見れば"八山田のディディエ・ドログバ"の自業自得のように思えて仕方がない。自分のスケベが災いして30万円のパソコンをふいにしてしまったわけだが、それを認めたくないというキモチが"二本松のズラタン・イブラヒモビッチ"への責任転嫁というカタチに表れてしまったのだろう。この二人の関係性を乱歩の「ペテン師と空気男」に置き換えて、どっちがペテン師でどっちが空気男なのか考えてみた。頭の回転や性格のねじれ具合からすれば"二本松のズラタン・イブラヒモビッチ"がペテン師で、天然ボケの気がある"八山田のディディエ・ドログバ"は空気男となる。しかし、ウィルス事件のことを思えばペテン師はドログバのほうとなり、毎夜の右手の濫用によって抜け殻のように青い顔をしているイブラヒモビッチが空気男とも言える。―っていうか、二人ともが空気男で、あえてペテン師を探すとすればそれは俺じゃないか、という結論に達した。
 …このカラダは貴方のために誂えたような塊。ソラでも思い出せるでしょ? 頭の中より精密で、心臓より素直で単純