時間を知りたきゃ俺に聞け

 サッカーのスペイン代表は"無敵艦隊"などと呼ばれ、実力的には世界でも五指に入ると評されることもあるぐらいだが、大きな大会ではなかなか好成績を収められない。楽観的なお国柄のせいか、はたまた油断してしまうのか、とにかく詰めが甘い。俺、全然たいしたことはないのだが、鼻水と倦怠感をおぼえたので医者に見てもらった。スペイン代表のように油断して痛い目に遭いたくないから。
 かかりつけの近所の医院は、子供の患者には会計の際に飴をくれる。病院嫌いの子供も「お利口にしていれば飴がもらえるんだよ」とお母さんに諭されれば借りてきた猫のようにおとなしくなってしまう。まさに「アメとムチ」とはこのことか。教育のお手本ですな。
 自動巻き式のブライトリングに動力を供給するため、俺の一挙一動は吉川晃司のようにいちいちオーバーアクションになる。会社でパソコンを叩く姿も、ジャッキー・チェンの拳法さながらである。仕事をすることの副産物として時計に動力が供給されるのではない。時計に動力を供給することの副産物として仕事もしている、といった感じだ。「腕時計に付いた指紋をシコシコ拭き取っている時間ほど至福の時は存在し得ない」とプラトンが言ったとか言わないとか。「ロレックスと一緒に焼いてやってくれと懇願する祖母。もったいないからやめろと止める親族。金属は駄目なんです、とあっさり断った葬儀屋。人生はかくも食い違う」と、ジョージ・ルーカスが言ったとか言わないとか。「なんでそんなに腕時計買うんだい? 腕は2本しかないのにさ。蛸じゃあるまいし」と、どこかの腕時計マニアのお袋さんが言ったとか言わないとか。「時間を知りたきゃ俺に聞け」と徹夫が言ったとか言わないとか。「人生いろいろ、会社もいろいろ」これは言ったな、小泉さんが。少々論点がズレてきましたが、俺は自動巻き式機械時計のゼンマイが「ぐぉんぐぉん」って回るのを感じるのが好きなんだ。腕時計の息吹をたしかに感じるんだ。時計は生き物だって確かめられるんだ。
 …胃から込み上げる塊、いまさら手遅れ。無駄に垂れ流す言葉はもう腐ってる。揺らいだ世界で独り立っている。たかがそれだけの為に何もかも捨て