棚倉教授の荒療治

 親善試合なのに髪の生え際まで紅潮させて怒るジーコを大人げないと思ったが、勝利へのあくなき執念というか、これはスポーツマンにとってはなくてはならないものなのかも知れない。ロナウジーニョは幼少の頃、犬を相手にサッカーの練習してたらしい。俺も飼いたいな、犬。
 今日も通院した。陽の高い時間はいもを洗うような混雑を思わせる院内だが、俺が赴く夕刻は閑散としている。俺は、医者のご機嫌をとらないと痛い療治を施されるんじゃないかと不安視してしまう性質だ。生命保険の勧誘じゃないかと思われるほど念入りに「こんばんは」と満面卑屈な笑みで挨拶し、待合室の植木鉢をいじくりはじめる。「いけないねえ、少し水をやったほうがいい」と医者に聞こえよがしに呟いて、自分で手洗いの水を両手ですくって来て、シャッシャと鉢にかける。身振りばかり大変で、鉢の木にかかる水はほんの二、三滴だ。ポケットからハサミを取り出して、チョンチョンと枝を剪定して枝ぶりを整える。出入りの植木屋かと思われかねない。医者のご機嫌をとりたいがためにわざわざポケットにハサミを忍ばせて行くのだが、渋い芸も派手な芸もあの手もこの手も一つとして役に立たず、一様に黙殺されている。
 通称"二本松のパク・チソン"は、30歳を過ぎてから心身ともに切れ味を鈍らせているが、大奥を批評させたときだけはとてつもない鋭さを発揮する。やれ女優陣が弱いだとか、やれ小池栄子の目芝居は眉毛だけだとか、やれ内山理名を娶りたいだとか。さらには、綱吉公の母にあたるお玉が"玉の輿に乗る"の語源だが、キャンタマ袋の重さで腰痛を発生をする状態の"玉の腰"が"玉の輿"に変化したという説もある、などと言った半ば意味不明なトリビアまで披露する始末だ。
 もう金曜日か。一週間早いねえ。月火水木田村で金、谷でも金、原でも金。月火水木除菌殺菌ウィークリーバイ菌ランキング、ピロリ菌イモ欽土禁募金、1位は善玉菌バイバイキン!
 …暗闇に火を点けろ。すぐ灰になるけど。今、壊れる少し手前の狂炎。実はどこかに陰があるのかもと案じてる。いつかは恒常性も失われてくのか