海の恵み

 出張を終えて職場へ戻る道中、コンビニへ寄ったら6年ぶりにスピリッツを買いそうになった。だって巻頭グラビアが皆藤愛子だったんだもん。鼻水とよだれを拭いながら「テニスルック萌え〜」とか思った。あれに中川いさみ先生の漫画が掲載されていたら買ってたな。 軒を連ねるパチンコ店の誘惑に打ち勝つのも大変だ。親方に電話して「何も聞かずに今から休暇をください」と言いそうな自分を必死で押し殺した。
 父の友人から極上のあわびをいただいた。50数年生きてきた父に「こんなでかいあわびははじめて見た」と言わしめた海の幸は、刺身となって夕食の食卓に並んだ。肝を醤油でといたタレに刺身を浸して食べるとおいしいらしいが、俺はシンプルにわさび醤油につけ、レモンをほんの少し搾って味わうほうが、さっぱりしておいしいと思った。貝とレモンはすごく相性が良い。貝のおいしさがわかってきたのはつい最近のことだ。コリコリとした歯ごたえがたまらない。俺はフランス料理には同調できない。バターをどっさり使った料理に「素材の良さを活かして…」などと言われても説得力がない。そんなに油ギッシュにしちゃうんだったら素材なんて関係なくなっちゃうじゃん、とか思う。世界中見渡しても和食を超える料理はそうそう見当たらない。和食は最高だ。
 一度はずした留守番電話のオプションだが、やっぱりないと不便なのでドコモショップで手続きをしてきた。ついでにFOMAの電波状況を聞いてみたら、原家は大丈夫ってことらしい。「気になるようでしたら無料で一泊だけお貸しできますが」と言われた。そんなサービスあったんだね。数ヶ月前にドコモショップを訪れた際に「この人、二重アゴじゃなければ完璧なのになあ」と思わせたお姉さんはいなかった。ガッカリ。
 会社で俺の席の対面に座っている人はちょっとした生物博士だ。臆病者の俺はアブが近づいてきただけでパニクってしまうのだが、そんな時は「これはハナアブだから刺さないよ」と言ってアブの羽をパッと押さえて屋外に逃がしてくれたり、奇怪な模様の蝶が部屋に入ってくると「うるさいジャノメ蝶だな、これはね羽の模様がヘビの目玉みたいだからジャノメ蝶って言うんだよ」と求めてもいないのに懇切丁寧に解説してくれるのだ。
 明日は、親方は休み。良性の腫瘍を切除してくるんだってさ。ついでに頭を切開して脳みそを20%減らしてもらうといいのに。俺、漢字読めないけど結構楽しく生きてるもん。
 …羽が生えた人たちは、とうに飛び立ってしまった。星になれた、綺麗な。もう触れはしないような。だけど今も、そばで羽を磨いているような