心に鍵を

 残暑厳しい折、研修を受けてきた。話に集中できるのはせいぜい最初の30分ぐらいで、あとの時間はリシリヒナゲシ(利尻雛罌粟)の花の香りを想い出したり、スケベなことを考えたり、ジネディーヌ・ジダンの頭の当たりを思い出して静かに笑ったりしていた。質疑応答の時間には威勢よく挙手して「ここの講義室は禁煙って書いてあるけど屁とかはしても平気ですか」と、キングオブコメディのボケが言いそうな暴言を吐いたりした。
 通称"八山田のディディエ・ドログバ"は、押忍!番長でとめどなくボーナスをひき、顔のしわをゆるませたりこわばらせたりしていた。受け皿からメダルが溢れて床に転げ落ちても夢中でリールを回しまくっていた。そしてクロマニヨン人がマンモスを狩る時のような恐ろしい形相で、床に落ちたメダルを俺に拾わせるのだ。まるで「しゃがんだついでに俺の靴の底を舐めるがいいさ、この負け犬がぁ!」と言われているかのようだった。晩飯をごちそうになったが、肉を食す彼の対面で、俺は細いジェノヴァ風スパゲティを申し訳なさそうに一本づつすするのだった。機嫌の良い彼に対し、今日だけは何を言っても怒るまいと思ったから「おまいの顔、この霜降りステーキの切り口みたいだな」とか「寝ている間に顔面に昆虫ゼリーを塗ってやろうか? しわの間にカブトムシが住みつくぜ」とかチクチク攻撃してみたが、十両に胸を貸す朝青龍のような懐の深さで、軽くかわされてしまった。
 ジェノヴァと言えば、かつて三浦和良が在籍したサッカーチームとしても知られているが、セリエAにはもういない。カズもJ1の試合では見れなくなってしまった。平山はすごい。ポジションニングの巧妙さと、勇気と、その二つが呼び込んだ運と。栄枯盛衰だね。
 …迷子になった覚えはない。スピードに乗ってる実感もない。でも最後に飛び乗ったわけもないぜ