徹夫と愉快な仲間たち

通称 "みずきが丘加藤鷹”。ナルシストである。ある新聞社が「本宮町美少年コンテスト」を募っていたとき、あのときにはよほど自己推薦しようかと三夜身悶えした。けれども三夜の身悶えの果て、年齢制限に引っかかることに気がつき断念した。深夜、裸形で鏡に向い「ニッ」っと可愛く微笑してみたり、一度鼻の先に針で突いたような小さい吹出物を発見して、憂鬱のあまり自殺を計ったことがある。

かつて "絶望ヶ丘のブタ" と恐れられた男は、人に接するとき少し尊大ぶる悪癖があるけれども、これは彼自身の弱さをかばう鬼の面であって、まことは弱く、とても優しい。友人と映画を見にいって「これは駄作だ、愚劣だ」と言いながら、その映画のサムライの義理人情にまいって、まず真っ先に泣いてしまうのはいつもこの男である。

人呼んで "八山田のジャン・レノ" は40歳。いまだ結婚せず、大手スーパーに通勤している。スワヒリ語が堪能でヒゲが濃い。伊達眼鏡をかけている。心は地味だが誰とでもすぐ友達になり、一生懸命に奉仕して捨てられる。それが趣味である。憂愁・寂寥の感を密かに楽しむのである。けれども一度職場の女性店長に夢中になり、そしてやはり捨てられたときには、そのときだけはさすがに芯からゲッソリして、間の悪さもあり、肺が悪くなったとウソをついて一週間も寝て、それから首に包帯を巻いて、やたらに咳をしながらお医者に見せに行ったらレントゲンで精細に調べられ、「稀に見る頑強の肺臓である」といって医者にほめられた。

自称 "棚倉村のアイヴァーソン"。これは俗物であった。どんな人をも蔑視したがる傾向がある。人が何か言うと、「ケケケッ」という奇怪な、からす天狗の笑い声に似た不愉快きわまる笑い声をはばからず発するのである。ブルドッグ一点張りである。これとても、ブルドッグの陽気な精神に敬服しているのではなく、ブルドッグが愛玩犬として定着する史前のマスティフ時代の高位高官に傾倒しているらしいフシが無いでもない。けれども頭の回転はバツグンに速く、詩歌のセンスにも長けている。俗物なだけに、いわば情熱の客観的把握がハッキリしている。自身その気で精進すれば、あるいは一流作家になれるかも知れない。